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特集コラム

Column

#2『音楽塾ヴォイス誕生秘話』 西尾芳彦(音楽プロデューサー/作詞・作曲家)

2015.10.27 / 特集コラム

YUI、絢香、家入レオと新人の売り出しが難しい時代に次々と原石を掘り起こしヒットさせてきた「音楽塾ヴォイス」塾長西尾芳彦氏。なぜこれだけの人材を輩出し続け、ヒットさせることができたのか。その極意を聞いた。

——— 今や誰もが知るYUI、絢香、家入レオなどのアーティストが音楽塾ヴォイスから続々と生まれていますが、まず音楽塾ヴォイス設立の経緯を教えてください。
西尾 「若い頃、もともと僕もミュージシャン志望でした。ギターを弾いてピアノを弾いて、見よう見まねで作詞作曲をし、がむしゃらにライブ活動をしてようやくメジャーデビューまではこぎつけましたが、結局上手くいかず挫折してしまいました。より多くの人を感動させる音楽的なスキルが足りなかったんだと思います。それから、一旦音楽とは距離をおきサラリーマンとして働いていましたが、しばらくして地元の先輩から誘われて、音楽スクールでヴォイストレーニングや作詞作曲を教える講師を始めました。
音楽講師としての仕事を通してまた音楽をやりたいという気持ちが再燃してきました。そしてサラリーマンを辞めてしまい、さらに自分の理想とする音楽スクールをやってみたいと思い、音楽塾ヴォイスを立ち上げました。しかし、最初始めた音楽塾ヴォイスはなんの変哲もない都心から少し離れたワンルームマンションから始めました。最初の一期生はたったの5人でした。
——— 西尾さん自身のメジャーデビュー後の苦労が今の指導に生きてるんですね
西尾 「デビュー当時を振り返ってみれば、いろいろと運がなかったなと思う部分もありますが、やっぱりそれも含め当時の自分の実力だったのだと思います。音楽が大好きでその気持ちだけでずっとやってきてなんとかデビューまでたどり着けたけれど、そこがゴールではなかった。デビューはただのスタートで、それから先に確かな結果を出すことが大切だと思い知らされました。結果が出ないとデビューをしても辛いことばかりなんですよ。だから生徒には「自分と同じような失敗は絶対にさせたくない」「このコたちの夢を叶えてあげたい」と強く思うようになりました。」
——— 現在は福岡校と東京校があり、生徒数もかなり多くなっていますが、どのような授業スタイルなんでしょうか?
西尾 「音楽塾ヴォイスは一クラスを3人までの少人数制にしています。コースはシンガーコースとシンガー・ソングライターコース、クリエイターコースがあります。
シンガーコースは発声、発音、腹式呼吸も含めて徹底的に基礎に重点をおいています。シンガー・ソングライターコースは楽器の習得から始まり、じっくり弾き語りの練習をしつつ、音楽理論、作曲法の指導をします。クリエイターコースは年齢制限はなく、自分では表に立つつもりはなくても音楽について学びたい、プロで通用する技術を身につけ、作詞家、作曲家、いわゆる音楽作家を目指す人のためのコースです。
——— 1クラス3人までですと、ほとんど個人レッスンのようですね
西尾 「そうですね。大きな音楽学校のように1クラスが20名以上という形で教えたくなかったんですね。生徒のためにも少人数で丁寧に教えていけば、週に1回のレッスンでも確かな結果がでると思っています。」
——— YUI、絢香、家入レオもそのような形態でレッスンを受けてきたんですね。
西尾 「そうです。ほぼ個人レッスンでやっていました。YUIと絢香が一緒に同じレッスンを受けていた時期もありましたね。」
——— 今考えるとすごい事ですね。具体的にはどういうレッスンをされていたんですか?
西尾 「歌の部分においては基本的な発音や発声はもちろんの事、実践部分においての実際のレコーディングやステージで使えるかっこいい歌い方などを丁寧に教えていました。二人とも楽器がほとんどできなかったのでまずはそこから始めていきました。そして作曲に必要と思われる理論だけを徹底的に教え込んでそこから応用をしていき、曲作りに必要なテクニックというものを叩き込みました。それは現在ヴォイスで教えている内容とほとんど変わりはないと思います。」
——— 彼女たちも非常に厳しいレッスンを受けてきたということですね
西尾 「そうです。音楽塾ヴォイスは初心者経験者問わず、基礎から徹底的に理論と実践を学んでいきます。基本的には何度も反復練習をして長所を伸ばしていくというやり方をとっています。単に音楽を楽しむというだけではなく、プロとして通用する為のレッスンを心掛けていますのでお稽古事、音楽教室ではないと思っています。ですので教える側の私たち講師も、どんなに難しいことも楽しみながら習得できるような工夫を凝らしたレッスンをいうものを心掛けています。それでも時には辛い練習もありますが、逆に言えばつい最近まではできなかったけれども「少し上達した」という自覚がはっきりと手に取るように分かるわけですから、やっていて楽しい、非常にやり甲斐があると、多くの方が思ってくれるみたいです。特にヴォイスの生徒さんたちは音楽に対してまじめで非常に根性もあるので、逆に生徒さんから僕らが刺激を受ける事も多いんですよ。」
——— その結果として、きちんとプロで通用する人たちが出てきているのですから、確かなメソッドだったわけですよね
西尾「そうですね。必ずプロで通用する、メジャーデビューしたあとでも必ず通用する、さらには自分が実際にメジャーアーティストのプロデュースをしていく中で『これは絶対に必要だな』と思った全てのことを盛り込んで教えています。 」
——— なるほど。プロで通用するメソッド、西尾さんが提唱する「ヴォイス理論」の裏には、「なぜ自分には人を感動させる曲が作れないのか、人を感動させる歌が歌えなかったのか」という疑問から生まれたということでしたが、その答えというものは出たのでしょうか?
西尾 「自分がメジャーデビューをして、でも売れなくて。それを人のせいにばかりしていましたが、サラリーマンを経験した後もう一度改めて音楽に向き合ってみた時、以前の曲がいかに未熟だったかってことに気づいたんです。いつまでも支持されている曲には人を感動させる力がある。しかし僕の歌う曲にはそれがなかった。その違いはなんだろうと思ったんです。そこには何か理由がありそうだと狙いをつけ、まずはヒット曲や名曲がどういう構成で作られているのか徹底的に分析するところから始めました。最初は試行錯誤でしたけどね。(笑) 勉強していく中で、10年経っても色褪せていない曲には必ずいくつかの『技』が隠されているということに気がついたんです。 」
——— その隠れた「技」をひとつずつ積み重ねてヴォイス理論を構築されていったんですね。
——— 人に伝わるかっこいい歌い方があれば具体的に教えてください。
西尾 「例えばYUIのデビュー曲の『feel my soul』を例にとってあげてみますと、サビの『I feel my soul Take me your way』というフレーズにたいして、音符どおり、リズムどおりに正確に歌う選択肢もありますが、この歌のこのサビについては、場所によっては少し下からしゃくってみたり、正しいとされる音符よりもほんの少し伸ばしてみたり、切ってみたり、強弱を加えてみたりというテクニックが必要になってくるので本人に具体的に聴かせて選ばせていました。一つ一つは小さな事ですが、注意して聞いて頂ければ、サビのたった一行にも様々なテクニックが盛り込まれている事が分かると思います。 」
(2015.10.27 インタビュー・文:藤本雅子 )

【西尾芳彦 プロフィール

1961年 佐賀県唐津市生まれ。20代の頃、「VOICE」の名前でバンド活動をスタート、ヤマハポピュラーソングコンテストにて優秀曲受賞。ポリドールレコードよりメジャーデビューを果たす。
1996年 プロのシンガーソングライター、ボーカリストを育成する「音楽塾ヴォイス」を福岡で設立
2002年 福岡出身のバンド、ビアンコネロをプロデュース、翌年8月にはインディーズレーベルよりアルバム「EVEN」をリリース
2004年 プロデュースを手がけるYUIが「It’s happy line」でインディーズデビュー。
2005年 YUIが「feel my soul」でメジャーデビュー
2006年 絢香が「I believe」でメジャーデビュー
シングル「三日月」が第48回輝く!日本レコード大賞にて最優秀新人賞を受賞
同曲でNHK紅白歌合戦に初出場
2007年 絢香「Jewelry day」が第49回輝く!日本レコード大賞金賞受賞
2009年 「音楽塾ヴォイス」東京校を開校
2012年 家入レオが「サブリナ」でメジャーデビュー
家入レオ「Shine」で第54回輝く!レコード大賞最優秀新人賞受賞
2013年 家入レオ「太陽の女神」が第55回レコード大賞優秀作品賞受賞
2015年 家入レオが「君がくれた夏」でBillboard Japan Hot 100で初の首位

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