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#4:『声の持つ魅力 2』 (神の声)~絢香「三日月」~

2016.3.1 / 特集コラム

圧倒的な歌唱力と表現力でデビューから10年たった今も精力的に活動を続けるシンガーソングライター絢香。 彼女は16歳の時に福岡の音楽塾ヴォイスの門を叩き、それからわずか2年足らずの間に作詞作曲の方法論など、現在の音楽スタイルの礎を築いたという。デビュー以降も、ミリオンセラーを記録した1stアルバム「First Message」、2ndアルバム「Sing to the Sky」まで、シングル作品含むほとんどの楽曲を音楽塾ヴォイス塾長の西尾芳彦氏がプロデュースを担当した。アーティスト「絢香」が誕生するまでの軌跡について、西尾氏に聞いた。

——— 当時16歳だった絢香さんと西尾さんが初めてお会いされた時、彼女の堂々とした振る舞いが印象的だったと伺いましたが。
西尾「あれは2004年5月でしたね。彼女が初めてヴォイスのレッスン室にきて、歌を聞くことになったのですが『すみません、電気を消していただけますか?』といきなりリクエストしてきたんです。『何が始まるんだろう?』と思いながら電気を消したら、静かに目を閉じて精神集中を始めたんです。1分ほど目を閉じていたでしょうか、そこから自分でキューを出して自分のタイミングで歌い始めたんです。たった16歳の女の子が完全にその場を自分のステージにしていましたからね。驚きました。 緊張で張りつめた空気の中でしたが、独特の力強さと癒しがミックスされた『絢香』の世界を作り上げていました。当時から洋楽やロックなど、どんな曲調の歌も自分のフィルターを通して自分の色に変える事ができるシンガーでしたね。 ピュアな歌い方の中にも絶妙の声量とリズム感は既にプロの領域に近いものがありました。」
——— 内面的な部分はどんな印象でしたか?やはり普通の16歳の女の子とは違っていたのでしょうか?
西尾 「デビューしたいという気持ちは相当強かったと思います。18歳までには絶対にメジャーデビューをしたいという明確な目標を持っていましたので。音楽塾ヴォイスに毎週末大阪から福岡まで新幹線で片道4時間かけて通っていました。音楽以外のものは目に入らない様子でしたね。本当に努力の人でした。いつも『私には音楽以上のものはないんです』と言っていましたからね。」
——— 塾生時代はYUIさんと絢香さんが同じ授業を受けたことはあったのでしょうか。
西尾 「ありましたよ。2コマか3コマでしたが、入塾間もない絢香のクラスにYUIが突然入ってきたんです。『クラス違うんじゃない?』と言っても、YUIは『私も受けたい』とニヤニヤするだけ(笑)。結局来たばっかりの絢香さんは断ることもできず、二人で必死にノートをとり理論を勉強して、並んで発声練習もしましたね。こう言っては何ですが、まさかこの二人が将来こんなことになるなんて思ってもいませんでしたが(笑)」
——— 貴重なレッスン風景でしたね。YUIさんも絢香さんも他の生徒さんと同じように授業を受けていたんですね。
西尾 「そうです。彼女たちも、みんなと同じ授業を受けていました。」
——— 絢香さんの代表曲ともいえる『三日月』は彼女が音楽塾ヴォイスに在籍している時にできた曲と伺っています。この曲も西尾さんがプロデュースされていますが、どのように制作されたのでしょうか。
西尾 「三日月の原型ができたときに、絢香にピアノの横に立って歌ってもらいました。その時はまだ歌詞はできていなかったのでラララで歌ってもらいましたが、それが非常に柔らかく素直な歌声で、その世界観たるや素晴らしいものがありました。歌っている側から鳥肌がたって、5分ほどおさまりませんでした。 感動的な声で、そこはまるで神が舞い降りたとしか言いようがない空間に感じました。この声を世に出さずしてどうするかという、そういうことまで考えてしまう程でしたね。 代表曲になるとまでは考えていませんでしたが、非常に神懸かった曲だと思っています。 彼女は、瞬時にメロディを覚えてその世界に入り込んで歌っていました。そしてすぐに『三日月』というタイトルが浮かんできたようです。一週間後には『三日月』の歌詞を作ってきました。」
——— 『三日月』のレコーディングでのアドバイスや指導はどういったものだったのでしょうか。
西尾 「『三日月』に関しては、一切フェイクは無しにしようとアドバイスしました。いわゆる和メロを主軸にした曲なので、R&B等で使うフェイクとか技法は極力無くしました。あえて余計な事はせず、素直な歌い方が一番伝わると思いましたので。 絢香の歌声は、生で素直に歌ってくれた時、高度なテクニックを使わずとも本当に素晴らしい声なんです。僕は常に、マイクを通さずに一緒に曲を作りながら真横で彼女の声を聞いていましたが、そこは本当に絢香ワールドでしたね。彼女の世界で満ち溢れ、非常に幸せな気持ちになり、気づいたらメロディが出てきたり。メジャーデビューしてからは明確な楽曲への要望ですとか締切りなんかも当然出てくるわけですが、基本的にはそんな感じでほとんどの楽曲を作っていきました。」

——— 前回YUIさんのお話を伺った時もYUIさんの歌声に触発されてメロディが自然と降ってきたとおっしゃっていましたね。 『三日月』も、西尾さんと絢香さんとが共鳴して生まれた作品だったんですね。
西尾 「二人にしか出せない空間だったと思います。今では懐かしい、素晴らしい想い出です。」
(2016.2.24 インタビュー・文:大橋純)

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