#7 絢香『Real voice』
- ——— まずはサビ始まりのイントロになっていますね。
- 西尾 ど頭はサビ始まりのようですが後半の3、4小節目は若干アレンジされたメロになっていて完全にここ用のフレーズになっています。
- ——— その後、イントロだけでも目まぐるしく展開していきますね。
- 西尾 そうですね。その後のバンドインのきっかけのピアノのリフも完全にここにしか出てこないフレーズです。このピアノリフはアレンジャーの鈴木daichi秀行さんと一緒に8時間くらいかけて考えた渾身のフレーズです。曲頭のたかだか4小節ですが、イントロは時にサビと同じかそれ以上に曲の顔になり得ると思っていますので、どの曲にも特に力を入れて作っています。
- ——— ライブでも盛り上がりそうなイントロですね。
- 西尾 単なる歌ものではない!という主張を込めたイントロです(笑)。シングル曲でしかも月9の主題歌という事で「切なくて躍動感溢れ、感動的で尚且つキャッチーな曲を!」と盛り沢山な事を求められましたが(汗)、基本的に絶対ライブで盛り上がる曲にしたいと当初から考えていましたからね。特にReal voiceはロック調の楽曲になるのでバックの楽器をかっこよく聞かせるという事も意識しています。
- ——— Bメロ後半のバンドサウンドとボーカルの絡みもかっこいいですね。
- 西尾 ほとんどの曲でBメロ後半はサビへの準備期間、サビを期待させる役割を担う場所になるので、この曲でも例に漏れずそうしています。まず布石として、Aメロからここまでメロディで高い音域を使わず、バックのリズムにしても淡々とした8ビートのパターンのみにしてもらっています。初登場のバンド全体のセクションと高音域のメロディを続けざまに入れ込む事でサビに向けて一気に盛り上げています。
- ——— バンド全体というとアレンジ、編曲の範疇にもなってきますが、こういった展開を作る秘訣などあるのでしょうか?
- 西尾 曲を盛り上げよう!とテンションが上がると、メロディの音数を増やして隙間を埋めてしまいがちですよね。
Real voiceのBメロはメロを入れないテクニックを使っています。メロディのQ&Aのそれぞれがしっかり機能して引き合っていれば例え音数が少なくても物足りなくは聞こえないんです。結果としてバックの楽器をかっこよく聞かせる事にも繋がってきます。 - ——— やっぱり大元のメロディの作りが大事なんですね。サビもQ&Aの構成になっていますよね?
- 西尾 そうですね。サビも2小節ずつの分かりやすいQ&Aになっていますので参考にしてみてください。
- ——— ずばり、Q&Aのメロディを作る秘訣みたいなものはあるのでしょうか?
- 西尾 前半のQuestionのメロに対してどんなAnswerのメロにすればいいかですが、答えとしては、たくさんの楽曲をカバーしてQ&Aの感覚を養い、メロディの引き出しを増やして、そしてそれを必要な時に瞬時に引き出す練習あるのみです。 具体的な練習方法はいくつもありますが、ヴォイスのレッスンではもちろんそこもカバーしています。 まずは、基本のダイアトニックコードと4小節単位の長さでの標準的な曲作りを練習するのがいいと思います。そうしてできた自分の曲を精査する段階で、メロディがコード鳴りになっていないか、各ブロックのコード進行はどうなっているか等、前回までで紹介したいくつかの手法も役立つはずです。
塾生の皆さんにはこのように各ブロックのメロディのつながりやQ&Aのさせ方、バックのリズムやコード進行とメロディの関係性など様々な観点・視点から何度も聞いてもらいたいです。こういったロジックを理解するにはセオリーを否定せず研ぎ澄まされた感性を持ち、反復練習が苦にならないひたむきさみたいなものが必要になってきます。失敗を繰り返す中で必ず何かの気付きがあるはずです。 良い曲には必ず「独特な匂い」や「色」があります。目には見えませんが五感を越えた部分で脳と体に直接訴えてくるような何かがきっとあると僕は思います。そこまで拘ってみて下さい。 違った観点で言うと、この方法を続けていけば特殊な才能を持った一握りの天才にも迫れるはず!です。 目標を高く掲げ邁進していきましょう! - 【制作裏話】
音程の跳躍やシンコペーションがふんだんに入っていて、かなり複雑なメロディになっているReal voiceの後サビですが、実はこれはレコーディング当日にできたメロディなんです。元々違うメロディがのっている状態でレコーディングに入りましたが、歌入れをしていてもやっぱりしっくりこない。もうこうなっては仕方ないので、スタッフの方々に無理を言ってレコーディングを中断、1時間ほどの休憩を取ってもらい、その間に必死で作りました。月9主題歌という事で関係者も大勢来ていましたし、冷や汗ものですよね(笑)。その日に歌入れを終わらせるスケジュールで全体が動いていましたので、この部分はドンカマ(メトロノームの音)と僕のアコギのみで作ったオケで歌ってもらいました。当然、絢香にしてもぶっつけ本番のレコーディングになりましたが、見事、あの難しいメロディを歌いこなしました。どんなに難しいメロディでも絢香なら歌える!という信頼と確信があったからこそ、僕のわがままを通す事ができたとも言えますよね。